奈良地方裁判所 平成7年(ワ)237号 判決 1996年1月26日
原告
大野春男
被告
大西春男
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して金二〇三万五二八〇円及びこれに対する平成七年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは原告に対し、各自三二八万七七六〇円及びこれに対する平成七年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 1項につき仮執行の宣言
二 被告大西
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 被告川口は、適式の呼び出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 次の交通事故(以下「本件事故」という)が発生した。
(一) 日時 平成七年二月一〇日午後九時四〇分頃
(二) 発生場所 大阪市中央区農人橋二丁目府道高速大阪東大阪線東上〇・四キロポスト先路上
(三) 加害車 普通貨物自動車(大阪四七ほ七五二六)
右運転者 被告大西
(四) 被害車 普通乗用自動車(奈良三三た七九九七)
右運転者 原告
(五) 態様 停止中の被害車に加害車が追突した。
2 責任原因
(一) 被告大西は、飲酒の上、前方注視を怠つて本件事故を発生させた。
(二) 被告川口は、被告大西を雇用していたところ、本件事故は、被告大西が被告川口の事業の執行中に発生したものである。
3 損害
本件事故により、原告は次の物損を被つた。
(一) 修理費 二三四万八四〇〇円
(二) 評価落ち損 九三万九三六〇円
4 よつて、被告らに対し、各自三二八万七七六〇円とこれに対する事故日である平成七年二月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。
二 被告大西の答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)の事実は争う。
3 同3の事実は知らない。
三 被告大西の抗弁
本件事故現場は、府道高速大阪東大阪線の環状線と湾岸線の分岐点を少し過ぎた地点であり、原告は、他の車線に進入するつもりであつたのに右分岐点を行き過ぎてしまつたため、分岐点に後退しようと被害車を追い越し車線に停止させていたものであつて、原告には、夜間、高速道路上で、被害車を路肩に寄せることもなく停車し、かつ、その旨の警告も怠つていた過失がある。
四 抗弁に対する原告の答弁
抗弁事実は争う。
五 被告川口は、前記のとおり答弁書その他の準備書面を提出していない。
第三証拠関係
記録中の証拠目録に記載のとおりである。
理由
第一原告の被告大西に対する請求について
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因2の事実につき、被告はこれを争い、かつ、過失相殺を主張するので、本件事故の態様につき判断する。
1 乙三の1ないし6、乙四によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場付近の状況は、別紙図面のとおりである。
路面は平坦でアスフアルト舗装され、事故当時は乾燥していた。最高速度は時速六〇キロメートルに制限され、駐停車は禁止されている。交通量は普通であり、夜間ではあるが照明灯により明るく、見通しは良い。
(二) 原告は、被害車を運転して、湾岸線を走行しようと東大阪線を東から西へ時速約八〇キロメートルで進行して本件分岐点に差しかかつたが、その右側車線を走行していた他車が被害者の前方に進路を変更したため、これを避けようとして本件分岐点で環状線方面行き車線に進入してしまつた。そこで、原告は、湾岸線方面行き車線に戻るべく被害車を停止させ、その機会を窺つていたところ、別紙図面<×>点で被告大西運転の加害車に追突された。
(三) 被告大西は、仕事を終えてからビールを飲み、加害車を時速約七〇ないし八〇キロメートルで走行して本件分岐点に差しかかつたが、案内標識を確認してから視線を前方に向けたところ、進路前方約一〇・六メートルに停止している被害車のテールランプを認め、左に転把して急制動をしたが及ばず、加害車の右前部を被害車の左後部に衝突させた。事故後、被告の呼気一リツトルについて〇・三五ミリグラムのアルコールが検出されている。
被告大西は、原告が停止中に警告の措置をとつていないと主張し、乙三の3中にはこれに沿うかのような被告大西の供述記載もあるが、乙三の4中のこれに反する原告の供述記載に照らすと、被告大西の右供述記載によつては原告が警告の措置を取つていなかつたと認めるには足りない。
2 以上の事実によれば、被告大西には、酒気を帯びた状態で加害車を運転した上、案内標識に気を取られて、前方を十分に注視しなかつた過失が認められる一方、原告にも、駐停車が禁止されている高速道路上で被害車を停止させていた過失が認められる。そして、前認定の道路状況等の事情の下において、過失相殺の割合を原告一、被告大西二とするのが相当である。
三 原告の損害額について判断する。
1 被害車の修理費 二三四万八四〇〇円
(甲二)
2 同評価落ち損 七〇万四五二〇円
甲二、三、乙三の2により認められる被害車の事故後の状態、その修理の部位や修理代金額、平成七年五月当時の同種の車両の価格等に照らし、評価落ち損を修理費の三割に当たる右金額の限度で認める。
3 過失相殺
右合計額三〇五万二九二〇円につき、原告の過失割合である三分の一を控除すると、被告大西の賠償すべき金額は、二〇三万五二八〇円となる。
第二原告の被告川口に対する請求について
一 民訴法一四〇条により、被告川口は請求原因事実を自白したものとみなす。
二 しかし、被告大西に対する請求について認定したとおり、原告には過失があると認められるから、当裁判所は職権でこれを斟酌することにする。
また、被害車の評価落ち損については、裁判所は具体的事実である修理費の額につき自白に拘束されるものであり、評価落ち損をその何割とするかの評価の点については、慰謝料と同様に裁判所は自白に直ちに拘束されるものではないと解されるから、これを修理費の三割に当たる七〇万四五二〇円の限度で認めることにする。
三 結局、被告川口の賠償すべき金額も二〇三万五二八〇円となる。
第三結論
以上の次第で、原告の請求は、被告らに対し連帯して二〇三万五二八〇円とこれに対する本件事故日である平成七年二月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よつて、主文のとおり判決する(訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用)。
(裁判官 前川鉄郎)